※冒頭からいきなりモブ臨表現があります。
18歳未満(高校生含む)の方は絶対に閲覧しないで下さい。
滑る生暖かい掌が足の先からじわじわと這い上がってくる感触に、息を詰める。
視覚を奪われた分、どうやら聴覚や触覚が敏感になっているらしい。
男の下卑た薄笑いが耳元で聞こえたかと思うと、耳の穴にぬるりと舌が滑り込んだ。
体の奥で永遠に続くかと思う振動を繰り返す異物に体を戦慄かせながら、必死で声を呑み込んだ。
「―――っあ、あぁぁ…っく」
「まだ声を抑える余裕があるのか」
ようやく慣れ始めた振動が、突如激しさを増して体を揺さぶり、思わず腰が跳ねた。
唇の端から溢れ出た唾液を、生ぬるい舌がべろりと厭らしく舐め取る。
顔を振って抵抗すると、異物が内側を不規則に擦って、余計に締め付けてしまう。
「ヒッ…あ、あぁーーっ」
熱を持たないはずの異物を中心に、じわじわと何かが体を支配していく。
意識まで持っていかれそうで、逃れようともがけばもがくほど、強い振動が襲った。
肌が熱くて、喉の奥がカラカラに乾いている。
手も、足も、抑え込まれてびくりともしない。
「あっ、あ…、んっ……!ヤ…、っ……あぁっ!」
「こんなに小さいローターに、良いように喘がされる気分だどうだ?情報屋さん」
粘つく声が頭上で何度も挑戦的な言葉を紡ぐけれど、とうとう頭がそれを理解できなくなった。
屈したくない、そう思うのに、頭は靄がかかったように熱に侵され、体が淫らな行為に引きずられていく。
吐き気がするような感触さえ、いつの間にか快楽にすり替わってしまうこの恐ろしい行為が、臨也の自我さえ食らい始めていた。
「も…お願い……っ、あぁっ!イヤ、だ…、こんな、の……っ」
「おいおい、こんくらいで根を上げてもらっちゃ困るぜ」
「んっ、許し……、あぁぁ――っ!」
異物がもたらす耐え難い感覚に浅い息を吐く臨也を、さらに男の指が追いつめる。
男の太い指が強引に二本侵入し、中途半端な位置で止まっていたローターをぐっと突き入れた。
ぐちゅり、と濡れた音がして、体を逸らしてなんとか快楽を逃がす。
けれどこのままでは、冷たい異物の振動によってイかされてしまう。
「あぁ……、っ、ん……、も、ヤダ……、あぁっ!」
ローターを二本の指で挟み、巧みに位置をずらされ、代わる代わる与えられる振動にもう声を抑える余裕はどこにもなかった。
太腿の内側を撫ぜられただけで、ぞわりと体に刺激が走る。
熱い、熱い、苦しい。
喉の奥が塞がれたように息が苦しくて、忙しなくはあはあと息が漏れる。
「クッ、あっ…、あぁぁぁ――――っ!」
男の指が強引に抜かれたかと思うと、振動が一気に臨也の体の内側を駆け下りた。
激しく内側の襞を擦られ、喉がのけ反り、痺れるような快感が体を容赦なく襲う。
「―――っあ……、んっ…は、……っ」
もう何も出ないのに、尿道口がびりびりと痛んで、解放を求めるように震える。
熱は一向に体の外へと逃げては行かず、臨也をどんどん飲み込んでいく。
屈辱と、悔しさと、諦めが一気に押し寄せる。
じわり、と目元を覆う布に涙が滲んだ。
泣いたって、誰が助けてくれるはずもないのに、喉が震えて嗚咽が漏れそうになる。
「休んでる暇はないぜ?情報屋のオリハラさん」
乱れたシャツの下に、見知らぬ男の冷たい手がぬるりと滑り込んだ。
* * *
臨也を連れ帰ってから丁度三日が経った。
外傷に加えて酷い栄養失調と脱水症状に陥っていた臨也は、未だに点滴と繋がれている。
よほど体力を奪われていたせいか、一二度薄らと意識を取り戻した以外は、ずっと眠っている。
あまりに昏々と眠っているため、時折静雄が枕元で臨也の呼吸をじっと確認する姿があったくらいだ。
静雄の気持ちも分からなくはないけれど、新羅はむしろ、臨也が意識を取り戻した後のことを考えると、少しばかり憂鬱だった。
「ほらほら、どいたどいた。ガーゼ取り換えるんだから、そこに居られちゃ邪魔だよ」
まるで親の仇に挑むような恐ろしい表情で座っていた静雄の肩を、急かすように叩く。
あの日から毎晩、静雄はこの調子で臨也の様子をしばらく見ているのだ。
静雄の思考は単純すぎて、新羅のような類の人間には、逆に何を考えているのか読み取りづらい。
柄にもなく心配していることだけは確かなので、新羅は黙って静雄の行動を見守っていた。
それに、懸念している事態が起こった時、彼がいるだけで大きく結果が変わることを、新羅は確信していた。
のっそりと立ち上がり、ベッドの脇に逃げた静雄を横目に、新羅は手際よく道具を広げる。
あちらこちらに目立つ外傷は手当てされずに放置されたものもあり、上手くしなければ痕が残る。
まずは腕から、次に上半身の服の下に隠れた部分、その次は足へと治療の部位を移動する。
臨也の肌は驚くほどにひやりと冷たくて、傷を一つ一つ目にする度に、眉間に皺が集まった。
「…おい、新羅、なんかこいつおかしい」
「え?」
静雄の声に、枕元に佇む彼に視線をやり、そのまま臨也を見た。
青白い口元がはくはくと大きく動き、不規則に胸と薄い肩が上下している。
明らかに呼吸が乱れ、酸素を求める臨也の喉がゼエゼエと異様な音を立て始めた。
(しまった…!でも、一体何が!?)
臨也の呼吸の仕方は明らかに過換気、つまり過呼吸だ。
何らかの要因で臨也がパニックに陥っていることに間違いないが、何が原因なのか分からない。
こうなることを恐れて気を使っていたはずなのに、嫌な予感は的中してしまった。
臨也を助けた時のあのパニック状態は、必ず今後も臨也を襲うと、確信していたというのに。
「そこの袋取って!」
「これか?」
臨也の私物を入れるために持ち込んでいた袋を手に、臨也に話しかける。
未だに臨也の目は、照明の元ではアイマスクで隠されているけれど、パニックに陥ったということは意識を取り戻していることになる。
正気を取り戻すには辛抱強く声を掛けて従わせ、落ち着くのを待つしかない。
「臨也、落ち着いて!吸っても楽にならない、ちゃんと吐いて!」
「っはあ、はあ、…っはあ、……っごほげほ、っは…!」
口元に袋を宛がおうとすると、どこにそんな力があったのかと驚くほど、臨也は両手を振って暴れる。
このままでは点滴の針がずれるどころか、倒れて逆流する可能性もある。
「だめだ新羅、こいつの耳には全然届いてねぇ!」
「――くそ、どうしたらっ!」
酷い怪我の治療は何度も経験したけれど、こんなケースは初めてだ。
さすがの新羅だって、心療科にまでは精通していない。
焦りに気持ちがからまわって、思考がうまく纏まらない。
「電気消せ。これ取っちまった方がいい」
妙に落ち着いた静雄が、臨也の目を覆うアイマスクを指して言った。
慌てて室内の照明を落とすと、静雄はそれを確認したと同時に、暴れる臨也の腕を強引にベッドに縫いつけて、アイマスクを取った。
「っはあ、はあ…っイヤ、だ、っはあ、やめ…ろっ!」
一層暴れ始めた臨也の体は、容易く静雄に押さえつけられて、忙しない呼吸音の合間に抵抗する言葉が混じる。
「ちゃんと目ぇ開いてこっち見ろ!」
半ば臨也の体に乗り上げるようにして、静雄が臨也の顔を覗き込んだ。
狭い部屋の中に響いた静雄の低い声に、臨也の抵抗がぴたりと止まる。
「よく見ろ、見えるはずだ」
「んっ…、はっ、はぁ」
暗さに慣れ始めた視界の中で、臨也が涙を滲ませた瞳を細め、必死で静雄の言葉に従おうとする。
臨也を見つめる静雄の瞳は、暗がりでさえぎらりと強く光って見えた。
ああ、やっぱり静雄をここに残しておいて正解だった。
「シズ、っちゃ…っはぁ」
「おう」
「くるし…っ」
「分かってる。これ口元に当てろ、それからゆっくり吐け。吸っても意味ねぇ」
できない、と横に首を振る臨也の汗で湿った前髪を掻き上げて、静雄は諭すように言う。
「できなきゃてめぇが苦しいだけだ。いいから、とにかく吐け」
小さく頷いた臨也の手に袋を持たせ、静雄は臨也の体をベッドから起こして座らせた。
指先が痺れて力が入らない様子の臨也に気付くと、震える指に自分の手を添えて、残った方の手を背中に回す。
必死で息を吐く臨也の背中を撫でながら、無言で新羅に寄越された視線に頷いた。
一体何分が過ぎたのか、時間感覚が曖昧になり始めた頃、ようやく臨也の過呼吸が収まった。
だらりと力の抜けた臨也の体は、吸い寄せられるように静雄の胸に倒れ込んだ。
「つか、れた…」
「そりゃそうだ」
シャツを弱々しく握る臨也の背中を、静雄が宥めるように数度叩いた。
まるで縋るように伸ばされた臨也の腕に、静雄は臨也の髪をくしゃりと撫ぜることで答える。
目に見えて安心した臨也の表情は、ひどく危うい幼さをはらんでいるように見えた。
「眠っちまえ、その方が楽だろ」
「ん……」
静かな声に、臨也の瞳がとろりと瞼を落とす。
程なくして気を失ったように、臨也は再び眠り始めた。
その様子にようやくほっと一息吐いて、ベッドに臨也を横たえる静雄を手伝った。
揃って臨也の病室を出て、キッチンからよく冷えたお茶を持って新羅はリビングに向かう。
我が物顔で新羅のお気に入りのソファに腰を落ち着ける静雄に、今回ばかりは文句の一つも漏らさずお茶を渡した。
「ほんと、臨也のこととなると、君には敵わないなぁ」
そう言うと、静雄は心底嫌そうに口元を歪めて、明後日の方向を向いてお茶を啜った。
「でも、正直このタイミングで臨也がああなってくれて、良かったと思ってるんだ」
「……どういう意味だ」
「だって、まともな状態の臨也が僕たちに弱味を見せると思うかい?絶対に見せないだろう?だから、静雄君がいる間に臨也の精神状態がどうなっているのか見られたのは、逆によかったんだ」
もし、普通に目覚めて、普通に臨也を見送ってしまっていたなら、臨也の状態を正確に把握することはできなかっただろう。
新羅のマンションで、静雄がいる時に臨也がパニックを起こしたのは、不幸中の幸いだったというわけだ。
(さて、こうなるとこれからがもっと大変だ)
空になったガラスコップをぼんやりと見つめて、新羅は重い息を吐いた。