授業が終わってもうずいぶんと経ったころ。
大助は、美術室で描きかけの絵にもくもくと色を塗っていた。
部員達がそれぞれ自分の創作活動に勤しんでいると。
室内に、ガラガラと扉が開けられる音が響く。
部員か顧問のどちらかだろうと考えながら、大助は絵に集中していた。
しかし暫く経ってから、突然自分の肩に手が置かれたので慌てて振り返る。
するとそこには、わりと仲の良い女子部員が何やらニヤニヤと楽しそうに笑って立っていた。
「丹羽君、ダーリンからのお呼び出しよ」
「え…!?」
あからさまに頬を真っ赤に染めた大助は、
まるで弾かれたかのように、椅子から立ち上がった。
隠れて見えていなかった扉の向こうが瞳に映る。
そこにはいつもと変わらぬ無表情で立っている、怜がいた。
「ごめん、ちょっと抜けるね!!」
一言言い残すと、エプロンを脱ぎ捨てて、大助は教室を飛び出した。
返事も待たずに出ていった大助に、その女子生徒は苦笑した。
「呼び出したりして、すまなかった」
「ううん、全然!そんなことないよ!!」
困るというよりもむしろ嬉しそうな大助に、怜はクスクスと小さく笑う。
自分が笑われた意味を全く解っていない大助は、とりあえず怜が笑う顔を見れて得をしたと思った。
そのまま二人は校内でもわりと静かなベンチのある場所へと来た。
とりあえず丁度よさそうな所で、並んで腰を下ろした。
けれど一向に話をしようとしない怜に、大助はそわそわし始める。
ついに我慢できなくなって、おずおずと口を開いた。
「あの、日渡君…」
「今日は11月11日。さて何の日でしょう」
突然問題を出され、「え?」と小さく声を上げたあと、大助は暫く素直に考え込む。
それから数秒後、ふと気づいたように顔を持ち上げた。
驚いて見開いた目が、怜をきっちりとど真ん中に映した。
「僕の…誕生日」
「…大正解。気づかなかったらどうしようかと思ったよ。Happy Birthday、“大助”」
綺麗な顔がくしゃりと和らいで、差し出されたものは、リボンの施された包み。
完璧な発音で紡がれた言葉”おめでとう”の後に、さりげなくくっついていた言葉。
―――大助
名前で呼ばれたのは初めてで、大助は驚きを隠せなかった。
一度にたくさんの幸せが訪れすぎて、頭の中がピンク色にでもなりそうだった。
「ありがとう」
半泣きの顔で言われて、怜はさらに笑みを深くした。
そして嬉しさに硬直したままの大助に、開けてみるように促した。
大助は上ずった調子で「うん」というと、いそいそとリボンを解き始めた。
中から現れたのは、真っ白な手袋。
大助は瞳をうるうるさせながら、満面の笑みを浮かべた。
「丹羽には、白が一番似合うかなと思って」
「僕、白好きだよ!」
「そうか。気に入ってもらえてよかったよ」
「本当にありがとう!こんなに嬉しい誕生日は初めてだよ!!」
そんな大助の喜びように、怜も嬉しくなる。
ああ、買っておいてよかった、とつくづく思った。
大助の屈託の無い笑顔は、怜を癒してくれる。
つられたように怜は、他人には見せない、大助専用の笑顔をたたえて。
幸せそうに手袋を見つめる大助を、暫く黙って眺めていた。
2004年度大助&ダーク生誕祭のWeb拍手用SS。