|
光のみなもと 煙突掃除の仕事は楽なものじゃない。 煤だらけの息苦しく狭いレンガの中を自力でよじ登って、煤を払い、空気の流れを作る。 時には冷め切らない煙突の熱さに悩まされたり、足元が狂って落下したり。 一日に何本もの煙突掃除をこなすと、そんなこともまれにある。 既に五本もの煙突をこなしたアルフレドは、都合のいい白い壁に背をもたせて小休憩に入っていた。 暇があれば本を開きたいところだけれど、そんな元気もないほど疲れた。 ふう、と息を吐いて疲労で軋む身体を空に向かってうんと伸ばす。 狭い煙突の中から、頭上に広がる大空に飛び出すような感覚がこの仕事の唯一の楽しみだ。 「アルフレドー!」 自由に伸びゆく空に意識を飛ばしていると、その空から降ってくる見知った声。 いつ聞いても明るくて元気で溢れているこの声を聞くと、アルフレドは自分まで元気になれるような気がするのだ。 「うわっ…。ロミオ?」 ロミオはアルフレドを見とめると、一目散に背中に飛びつく。 背中に優しい重さを感じながら首だけで振り向くと、悪戯が見つかったような表情のロミオ。 偶然自分に会えたことが嬉しかったのか、煤で頬を黒くしたままロミオはくすぐったそうに笑う。 そんなロミオがたまらなく愛しくて、アルフレドもまるで疲れを忘れたかのように微笑んだ。 「君も休憩かい?」 「ううん!まだこれから向こうの通りへ行くんだけど、君の姿が見えたから」 「まだ続けるのかい?疲れてない?」 「うん、大丈夫。心配してくれてありがとう」 ぎゅっ、とアルフレドの背後から抱きついていた温もりが消える。 少し寂しさを感じながら立ち上がったロミオを見上げると、 両手を空に向かって突き上げて、先ほどのアルフレドと同じように伸びをした。 「よーし、充電完了」 「ロミオ?」 「背中ありがとうー!」 気がつくともう遠ざかっていく声は、さっきよりも少しだけ弾んでいる。 去り際に見た笑顔も、幸せで溢れて、眩しいほどキラキラと輝いていた。 「君も僕も、お互い様ってことかな」 ロミオの明るく無垢な声に癒される自分と、そんな自分の体温で輝いてくれるロミオ。 お互いがお互いを知らないうちに支え合って、そうやって毎日を生きている。 ロミオのあの太陽のような笑顔を、こんなちっぽけな自分の存在が支えている。 そう思うだけで、アルフレドはこれから訪れるどんな困難も、乗り越えられるような気がした。 (どうかこの笑顔を、これからもずっと、守っていけますように) いつも優しく見下ろしている遠い空を仰いで、アルフレドは静かに願った。 |