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見失った星のゆくえ 群青色の空の中にそこだけ白くぽっかりと抜けるような月が浮かんで、その周りに星がびっしりと敷き詰められていた。 窓越しに伝わる空気はきんと張り詰めていて、部屋の中にいても吸い込むだけで肺の中がきりきりとする。 けれど冬の空は透き通るように綺麗で、たとえ村にいた頃のようにどこまでも広がる大空を目にすることができなくても、こうして見上げる空は沈んだ心まで透明色に溶かしてくれるようだ。 そんないつか絵本で見たような空にほんの少し見惚れて、それからロミオは決心したように部屋の扉を開いた。 踏み出した石畳は酷く冷えていて、薄っぺらな靴の底からその冷たさが伸し上がってくる。 少しくたびれたコートのポケットに手を入れて、ロミオは首から巻いたマフラーに顔をうずめた。 向かう先はこの街で、ふたりの時間が動き出しそして止まった場所。 誰もいない静かな通りを、月と星の明かりだけを頼りに歩く。 道に等間隔に立っている街頭には、もう火は灯っていない。 しばらく歩いて辿り着いた先で、久しぶりに見る景色にロミオはゆっくり息を吐いた。 ざわざわと騒ぐ心を落ち着かせるように、深呼吸を繰り返す。 氷のように冷たい取っ手にそっと手をかけて、軋む扉を身体を使って押し開く。 ここに来るのはあの日、彼の姿を最後に見送って以来だった。 一歩、また一歩。 少しずつ歩みを進めて、この教会を見守る十字架へと近づいていく。 日の差し込まないステンドグラスは、ひどく無表情なものに見えた。 十字架の前で方膝をついて、ロミオはいつかアンジェレッタにもらった銀の十字架をぎゅっと服越しに握り締めた。 冷たく硬いその感触が、ロミオに現実を確認させるように手の中で重みを増した。 もうどこにもいないひと。 どんなに想っても、届かないひと。 「…あ……れ、どぉ…っ」 何度も何度も泣いたのに、あれからもう何年もたったのに、それでも涙は溢れる。 このまま窒息して死んでしまうかもしれないと思うほど、胸が苦しくて声も出なかった。 かつて彼と再会したこの場所で、ロミオは蹲ったまま涙を流し続けた。 頬を覆う手は冷え切って、かたかたと小さく震えた。 「そんなに泣かないで」 ふいに耳元で、声がした。 「誓ったじゃないか。僕達はどんなに離れても、ずっと一緒だって」 振り向くのが怖くて、ロミオは動くことができなかった。 繰り返し見た悪夢のように、追いかけようとすれば消えてしまうのではないかと思った。 囁く声は確かに、ロミオが数年前に失った愛しい人の声なのに、それでも――。 「さあ、涙を拭いて。こっちを向いて、笑ってくれないのかい?」 あたたかで、優しい手のひらがロミオの冷え切った肩にゆっくりと触れる。 記憶よりも幾分か大きく感じる腕が、包み込むように背中に回された。 「―――ロミオ」 恐怖心を必死で抑えて、促されるままにロミオはついに振り向く。 一瞬、あまりの眩しさに目を瞑りそうになって、それでもロミオは目を凝らした。 そうしてそこにいたのは、まるで星屑を集めたようなブロンドの髪と、そして澄み渡る大空のようなブルーサファイアの瞳を持つ、ロミオが誰よりも愛した人だった。 |