ジョミーの脳裏に静かに微笑んだブルーの姿が映り、そっと手を差し伸べてくる。
思わず伸ばした手のひらに、馴染んだ感覚がかすかに伝わる。

『ジョミー』

まるで湖面に波紋が広がるように、酷く優しい音がゆっくりと頭の中に沁みわたる。
すべてを包み込むようにやわらかく子守唄のようなその声は、ジョミーにそっと触れて、そして霧散した。

「――ブ、ルー……」

意図せず動いた唇が、唯一の人の名をぎこちなく象った。

何もかもを悟ったような、安心しきったような、それでいて泣きたくなるような切なさを孕んだ声。
けれどもう、それはジョミーに優しさだけを与えてくれた声ではなかった。
ぎゅっと、息苦しくなるほど胸を鷲掴みにして、そして消えた声。

そう、消えた。ジョミーの世界から、いなくなったのだ。
ジョミーをずっと支え続けていたあの声が、あの温もりが、消えてしまった。

「っ…、ブルー!」

壊れないように、恐る恐る手を添えた耳元を覆うブルーの意志から、溢れるほどの記憶や感情がジョミーの身体の中を駆け巡る。
受け止めきれないほどのその思念に、ジョミーは震えた。

手放す瞬間には、既にこうなることを予感していたというのか。
知っていて、それでもこれほどに穏やかな声を、ジョミーに託したのか、あの人は。

「あなたは、残酷な人です…、ブルー」

ジョミーの瞳から涙がぽろりぽろりと、静かに溢れては落ちていく。
まだ、見たいものがたくさんあった。知りたいことだって、たくさん。
それに、肝心なものをまだつかんではいない。

「僕たちだけで、地球を目指せと仰るのですか?あなたはもう、いないのに…!」

何も果たせていない。ブルーに与えてもらったものを、ジョミーは何も返せなかった。
まだ見ぬ未来を残したまま、ブルーは最期の瞬間までジョミーたちに与え続けた。

だけど、でも。
ブルーの願いはどこへ行くのだろう。
ジョミーの願いは、ブルーのそれそのものだったというのに。

『ジョミー』

優しく照らす青い光が、風が頬を撫ぜるようにジョミーを抱きしめる。

『うつむくな、ジョミー』

「ブルー…」

もう掴めないその手が、触れることのできない燃えるような深紅の瞳が、ジョミーを揺さぶる。
顔を上げろ、立ち止まるなと、強い意志を地球へと向けて導き続ける。

「僕は、あなたを忘れない」

拭ってくれる人のいなくなった涙を、ジョミーは振り払った。
そっと胸に手を当てれば、そこにはまだブルーの優しい思念が漂っている。
幾年もの時を越えて、その形さえも変えて、ブルーの想いは存在し続ける。

「あなたはきっと僕の中で…、ミュウたちの中で、生きているから」


だから僕は、目指し続ける。
あなたの声を頼りに、まだ見ぬ蒼い星を。



Letzt Stimme

最 期 の 声


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2008.01.23(2007.11.24)
written by Naao Ayami