繰り返し繰り返し、見る夢があった。
果てしない闇路を彷徨って、足掻いて、絶望して。
それでもなお、ガラス玉ように蒼い命の星を求める夢。
かなしい、夢だった。
「――ミー…。ジョミー」
意識の深いところに、そっと触れる声。
ジョミーを捉える闇を照らす優しい青い光があまりに心地よくて、誘われるままにゆっくりと覚醒する。
うっすらと瞼を開くと、視界が滲んで揺れていた。
感覚だけが敏感に、頬に触れる冷たい温度を感じ取っていた。
ジョミーを闇から連れ出してくれた声のように優しくて、まるで母のような手。
色素の薄い白く細長い手の先にいる人を求めて、ジョミーは目を凝らした。
ぼんやりと漂い室内を包み込む、まるで夢の中の星の色のような光が再び視界に現れる。
その中に白銀が、ブレるようにして二つあった。
ジョミーは今度こそ驚いて大きく瞬いた。
その弾みにジョミーの頬を、一筋の涙が伝う。
次第に晴れていく視界の中に、見なれた姿だけが映る。
「ブ、ルー…?」
「よかった。酷く魘されていたようだから心配したんだよ」
やわらかく瞳を細めるブルーは、ジョミーのよく知っているブルーだ。
けれど、先ほど青い光の中で見たもう一つの銀の髪の持ち主も、ジョミーは知っている。
全てを悟ったような赤い瞳に、線の細い身体が纏う藤色の外套。
そして透けるような銀色の髪から覗く、白いヘッドフォン。
あれは確かにブルーだった。
でも、ジョミーの目の前にいるブルーではない。
(苦しい)
締め付けるような痛みに、ジョミーはそっと胸に手を当てる。
ゆっくりと瞬いた瞳から、また涙が零れ落ちた。
「怖い夢を見たのかい?」
涙を流したせいか、熱く火照った頬に再び低い温度が触れて、ジョミーの流した涙を丁寧に拭う。
この手の持ち主も、年齢にはそぐわない落ち着いた物腰に、燃えるように赤く、それでいて静かな瞳の色を持っている。
身体も決して肉付きが良いとは言えないけれど、割とがっちりした青年の身体だ。
一瞬だぶったあのブルーは、もっと顕著に細かった。
儚くて、今にも消えてなくなってしまいそうだと、ジョミーは感じたのだ。
(僕は…)
僕は、あのブルーを知っている。
それは直観だが、確信を持って言える。
「…ジョミー?」
ジョミーの視線がじっとブルーだけを映していることに気が付いたのか、ブルーが小さく首を傾げた。
ブルーの細いけれどしなやかな腕が、ジョミーの様子を窺うように引き寄せる。
強い意志を持った鮮紅色の瞳は、ジョミーの夢の中に溶けて消えたあのブルーの瞳とは違う。
「ブルー」
引き寄せるブルーの腕の力を借りて、ジョミーはその腕の中に飛び込んだ。
薄い布越しに心臓が脈を力強く刻む音がして、ジョミーは妙な安堵感を覚える。
「えらく甘えるんだね、ジョミー。そんなに怖い夢だったのかい?」
「ううん…。怖いのとは、違う」
「では、どんな夢だった?」
「必死になって、蒼い星を追い求めてる…かなしい、夢」
渇望して、追い続けたものが両手からすり抜けていく。
それは既視感と、酷い喪失感をいつもジョミーに残していく。
腕をできる限り伸ばして、ジョミーはぎゅっとブルーに抱きついた。
失いたくない。いつもより強く、ジョミーの心を覆う根深い欲求。
「…そうか」
耳元で、一言そう、ブルーが呟いた。
包み込むようにブルーの腕がジョミーの身体に回り、優しく髪を撫でる。
心地よいその感覚に、ジョミーの意識が再び暗闇へと引きずり込まれていく。
「もう少し、眠った方がいい」
微笑んで、ジョミーの全てだとさえ思えるほど大切な手が、静かに離れていく。
名残惜しさに縋るような視線を向けると、その先でブルーの瞳が頼りなく彷徨って、そっとジョミーから逸れた。
ベッドに押し戻したブルーの手が、微かに震えている。
「おやすみ、ジョミー。今度は良い夢を」
沈んでいく意識の端で、鮮やかな青い光と藤色のマントが消えた。